2008年12月29日月曜日

美しい手

NHKのハイビジョン特集で、『初女さんのおむすび~岩木山麓(ろく)・ぬくもりの食卓~』という番組を見た。

「森のイスキア」という青森の宿泊施設の話だ。心に重いものを抱えた人が、一晩の宿と食事を提供される施設らしい。田口ランディさんが行った時のことが以下のメルマガに書かれている。これを読むと、番組を見なくても、どういう場所なのか良くわかる。
[ 田口ランディ:森のイスキアでおにぎりを学ぶ]

私が番組を見ていて何より印象的だったのは、佐藤初女さんというおばあさんの、料理の下準備をしている時の手の美しさだった。

たとえば人参を包丁で薄切りする。慣れた料理人ならば、すたたたたたた、という感じで切るよね。ところが彼女は、薄い千代紙をそっとめくるように、ゆっくりと包丁を入れて、まるで最高級のトロを扱うかのように薄切りを作る。ゆっくりだが確実に、一つ一つ。

わらびのヘタを取るのも、ひとつひとつ、そっとはがすように取る。むしり取るのではなくて、はがすという感じが近い。

こんなスピードで料理ができるのか、と思うが、休み無く、楽しげに淡々と続けてゆくので、けっこうな量の山菜の下ごしらえが済んでしまう。

その手が、手の動きが実に美しい。

番組では彼女が、山菜を取って来たり、料理の下準備をしたり、つぎわけたり、そして、おむすびを作るシーンを丹念にじっくり見せてくれる。これが見飽きない。ずーっと見ていたいと思わせる手の動きだ。食材と彼女とが一体となったような感じがする。

まず私は、食べ物に対して、ぞんざいに対していなかったか。食べ物をちゃんと見て、匂いをかいで、味わっていたろうか。率直に反省した。ぞんざいに食べると、それが結局、自分自身をもぞんざいに扱うことになってしまっていたような気がする。食べ物は自分の体になるものだから、それはつまりは未来の自分自身の一部だ。料理を作る時も、心を込めるという意味をわかっていなかったことに、これも素直に反省した。食材一つ一つに対して、原材料としてでなく、私の体を生かしてくれる植物、動物として扱うことはできていなかったな。

それから、焦ることは無いと、その手の動きを見つめながら思った。現代社会に生きていると、もしくは、組織に属していると、時間が貴重で、効率性を追求することが、暗黙の前提になっていて。締め切りが山盛り。非効率なイベントが入ると、焦ってしまう。それが習い性になってしまう。彼女の手を見ていると、そんなに焦ることは何もないのだと、大事なことは別の所にあると伝わってくる。

食べ物は大事だなぁ。ほんと。

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