2014年3月21日金曜日

気合いの入っていないパン

いま住んでいる東京都世田谷区には、たくさんのパン屋がある。
家の近所にも徒歩圏内に10軒近くはあるだろう。
いろんなパンを食べ比べられる贅沢な場所にいるせいか、
気になることがある。それはパンの「気合い」とでもいうべき味
の違いだ。

まず、その違いに敏感になるのは、大手のパン屋チェーンが新し
く出店した店でパンを買う際だ。

例えば、成城学園前と仙川に、アンデルセンが出店している。
開店当初のパンには「気合い」が入っていて、さすがの味だった。
おそらく本店からベテランの職人さんが、開店に合わせて来て
アントニオ猪木のように気合いを注入しているに違いない。

ところが、開店から半年もすると、徐々に味が「なまってきて」、
「キレがなくなり」、全体にメリハリの無い味になっていく。
皮のパリッとした感じとか、中の水分量とか、フィリングや
混ぜ込まれた材料の感じとか、がダメダメになっていく。

私はパン屋に勤めたことはないので、何が違うとあぁいう風に
なるのか分からないのだけど、味がゆっくりとではある
が明らかに落ちて、「気合い」が感じられなくなってくる。

そして、恐らく、作っている職人たちは、それほど変化がある
ことに気づいていない。毎日作っているので、小さな変化に気づ
かない。

でも、時々買いにくるお客さんには、違いは、久しぶりにあった
親戚の子供の成長のように、この場合は逆だが、衰えぶりが
ハッとするぐらいわかる。

墨繪が豪徳寺に出店していて、そこも、アンデルセンほどでは
ないが、新宿で買うのとは明らかに違って、気合いが足りない。
あの新宿の墨繪で買える、ゴツゴツとした頑固な美味さには少し
届いていない。

硬いから気合いが入っているとか、いうのではない。材料が贅沢
に使われているから良いというものでもない。

例えば近所にオンカという、とても柔らかいパンを作っているパン屋
がある。押し付けるとペシャンコになってしまいそうな柔らかいパン
だが、きちんと角のたった気合いが感じられる。ラ・ヴィ・エクスキ
ーズのパンは弱ハード系で、焦げ目もしっかりしていて、明らかに
キリッとしている。仙川にはムッシュ・ピエールというとても小さな
パンを売っている、小さなパン屋があるが、あのパンの気合いは何か
ご主人の精神が固まったかのような感じすらする。

大手のチェーン店だから駄目という訳ではない。ディーンアンドデル
ーカは比較的味を維持しているし、個人経営のつまらないパン屋もた
くさんある。ただ、なんか作っている人の、配慮というか、バランス
感覚というか、技術と責任感が、一個一個のパンに現れるのだと思う。
大手だと、その配慮が届きにくいのかもしれない。

上述したように、この気合いが、作っている人には分かりづらく、
客には鮮明に分かる、というあたりが、物を売る仕事の難しさだと
思う。

美味しいパンに出会いたいなぁ。