2010年5月9日日曜日

『「お客様」がやかましい』感想

『「お客様」がやかましい』ちくまプリマー新書 森 真一

森さん、あいかわらず見事、「あ、まさにそう」と感じる一冊だ。わかりやすい本だけれど、問題の根深さには目が眩む。そのため、ところどころ読むのが辛くなった。

昔はデパートや、気取ったレストランでしか聞かなかった「お客様」という呼び方が、普通になっている。100円のハンバーガーを買っても、105円の野菜ジュースを買っても、「お客様」である。この「お客様至上主義」の現状と、そのクリティカルな悪影響を語る本だ。

ただ、この本でも取り上げられていて、ネットでも時々見かける次の意見にはちょっと異論がある。それは、海外だと日本のような馬鹿丁寧な顧客対応はしないし、それで気にならない、という話だ。この話の前段、日本のようなバカ丁寧さはない、には同意、しかし後段の「気にならない」には一部反対だ。

まず、ヨーロッパではあまり気にならない、というのは確かだ。それなりに金を出す店では、それなりの対応をしてくれる。スーパーマーケットに行くと、全体に事務的な対応をされる。また個人商店に行けば、人懐っこい対応をされることも多い。ドイツ、スイス、オーストリア、イタリアなど、お国柄で多少違うが、まぁバランスの取れた対応と感じることが多い。日本での対応に慣れていると多少素っ気ない感じはするが、まぁ不快ではない。

しかし、アメリカの対応は酷いと思う。素っ気ないとか、事務的というレベルではなく、ぞんざいだ。時に乱暴に近い。私はニューヨークしかしらないので,他の街は違うのかもしれないが。街の商店などで買い物をすると、何か嫌な事でもあったのか、というような対応に何度も出会う。実際彼ら・彼女らは嫌な目にあっているのかもしれない。もちろん高級イタリアンレストランなど、それなりに金を出す店に行けば対応は違う。しかし、このドライな感じは、日本人の私にとって、けっこう寂しい感じがする。

EUは統合が進むにつれて、どんどん変わっているので、いずれはヨーロッパもアメリカのようになるのだろうか。そうなら寂しいと思う。

そして、実は日本のチェーン店などでの、口だけ丁寧な対応が彷彿とさせるのは、アメリカのぞんざいな対応だ。口先だけの丁寧さは、次の瞬間に殴られるかもしれない、というような危うい人間関係を感じる。

私は、相手とのやり取り、ちょっとした修正、確認、挨拶、表情、仕草などを通じて、相手の人となり、状態を知る。そして、そのやり取りを通じて、少なくとも次の瞬間に、ぶち切れたりはしないと安心する。

しかし口先だけの丁寧な対応、マニュアル通りの台詞を繰り返す人物からは、そういった状態情報を得ることができない。だから不安である。不安なままである。

みんな急いでいる。何かに向かって、一分一秒を急いでいる。無駄なやり取りで「生産性を下げ」ている暇はない。エンデの『モモ』を思い出すね。

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