2010年8月15日日曜日

iPadはパソコンではない。でかいiPhoneでもない。きっと新しい世界への入り口だ

iPadを使い始めて一週間ほどになる。これは形容しがたい不思議な装置だ。新しい世界の入り口か。

1. パソコンではない

少なくとも、パソコンと同じではない。デスクトップパソコン、ノートパソコン、また、ネットブックとも違う。パソコンを期待して買うと、がっかりするのではないかと思う。大きく違うのは、(1) ファイルシステムが操作できない、(2) 情報作成環境が弱い、(3) ハードウェアキーボードが無い、といった点だ。

パソコンは、ファイル中心にできている。例えば、テキストファイルがあって、それを色々なアプリケーションで見たり、編集したりする。iPadはアプリケーション中心になっていて、同じファイルを別のアプリケーションで操作するのは、やりづらいか不可能だ。このファイルシステムが無い(見えない)、というのが、次の情報作成環境が貧弱、にもつながっている。

パソコンは文章にしろ、画像にしろ、さまざまな情報を作成するのに向いているが、iPadで情報を作るのはとても面倒、または不可能である。Webページ、PDF、画像、映像などを閲覧するのにはとても便利かつ快適だが、いざ何か書こうとか、作ろうと思うと急にハードルが高くなる。その意味でテレビに近い。iPhone/iPod touchは、画面が小さく、処理速度も遅く、何か作ろうと思う余裕がなかったので、それほど気にならなかったが、iPadの処理能力には余裕があるのに、作れない、というのは歯がゆい感じがする。

そしてハードウェアキーボードが無い。ソフトキーボードの使い勝手が悪い、とは思わない。十分良くできていると思う(ただしカナ漢字変換はひどい)。しかしiPadのソフトキーボードはおまけである。一方で、私はパソコンを使うときに、キーボードから指を離すことが少ない。カーソルの移動はもちろん、アプリケーションを変更、コピー・ペーストなど、すべてキーボードで操作する。iPadはタッチインタフェースに特化している。

Macにしろ、Windows, Linuxにしろ。パソコンを使っていると、何か作りたくなる、少なくとも私は。それに対して、今のiPadは受身の態度を要求する。なんか寂しい。もちろん後述するように、良いアプリケーションがまだ少ないのも理由のひとつだろう。

2. iPhone/iPod touchとも違う

「でかいiPhoneだ」という人も多いが、私はずいぶん違うように思う。OSは同じなので、大きくて、重くて、処理が速い、というが違いなのだが、それによって使い勝手がずいぶん違う。あたりまえだが、街角で赤信号を待つ間にちょっと何か調べ物をしたり、といった用途には向いていない。座って使うものだ。

iPhoneやiPod touchの大きな意味は、普段パソコンを使うことが無い、家やオフィスの外で使えるという点だ。外での経験、外での情報と組み合わせて面白みが出る。外出先で、食べログを調べて、店を探す。味わう。コメントをアップする。外出先で友人と離合集散しながら、iPhoneでコミュニケーションを続ける。こういう利用で光る装置だ。座って使うiPhoneやiPod touchに魅力は少ない。

この外で使うメリットを削ぐのが、iPadのサイズだ。信号待ちの最中にiPadをカバンから取り出すのは変だろう。画板のように肩から下げるか?

しかし座って、Webページや、PDF、画像などの閲覧をはじめると、その快適さにうなる。タッチインタフェースもあいまって、スムーズに閲覧できてストレスが少ない。これはiPhone/iPod touchとはまるで違う次元だ。

また上述のように、処理能力にかなり余裕がある。だから単に閲覧するのに使うのでは、十分に潜在能力が生かされていないように感じる。例えばsling Noteというスクラップブック作成ソフトを使っていると、まだ出来は悪いが、「そうだ、こういう箱庭のようなモノづくりのスペースとして使えると、とても魅力的だ」と感じる。

3. 新しい世界の入り口

この平たいコンピュータは、まだその真価を発揮していない。私には、20年前にMacを初めて触った時、また初代iPodを触った時に感じたような、荒削りな可能性、おぼろげな入り口が見えるような気がする。

iPadは他のアップルプロダクトと同じく「引き算」で作られている。引き算で作っているために、その特質が良くも悪くもあからさまになっている。今はまだ、この装置の真の魅力を引き出せるソフトウェアは、出来ていないのではないかと思う。椅子に座り、指を使って操作する平たいコンピュータ空間、隣に座っている人にすぐに見せることができる回覧板、姿勢や所在地を検出して姿を変えることのできる装置、いくつものキーファクターがある。もしかすると名前だけでなく、アランケイのビジョンに近い何かが現れるかもしれない。